8月にアフリカを訪れた、アジア学院職員スティーブンが書く旅行記を、シリーズで皆様にお届けしています。
この日スティーブンが訪ねたのは、2012年の卒業生キャサリンが指導する、村の貯蓄貸付グループ(VSL)です。彼女が教えるのはビジネスだけではありません。一つ一つの家族が夢をもって、自立して生きる術や、村人たちが協力し合って生きる道を教えているのです。
それでは早速、アフリカの旅へ出発です!
【アフリカ 卒業生を訪ねる旅 15日目】
活気あふれるリガンガ村
今日は村を訪問する日だった。カイは休養が必要だったので、ンジャラ・リゾートに留まり、私は一人で出かけた。マックの友人がマンゴチに連れてってくれて、そこでキャサリン(2012年アジア学院卒)と彼女の団体の事務所で会った。彼女は2020年からワールド・リリーフ・インターナショナルで働いているが、アジア学院にいた頃はマラウイ北部のムズズにある中央アフリカ長老教会のリヴィングストニア長老会 エイズ・プログラムに在籍していた。我々は全員車に乗り込み、ナバレ地区にあるキャサリンの村の貯蓄貸付(VSL)グループに会いに出かけた。“我々”とは、キャサリン、インターンのウェジーとグループのメンバー1名、そしてもちろん運転手と私のことだ。
「私は彼女たちにフードライフ・ワーク*を教えています!」
道すがらキャサリンは、25名ほどのメンバーから成る102の農村グループと働いていると説明した。彼女たちは各世帯を定期的に訪問する、“世帯アプローチ”を採用しており、衛生、商売、総合的な家庭菜園について教えている。これには裏庭の菜園や、鶏、ヤギ、鳩(やっぱりザンビアの鳩は平和のシンボルだけじゃなかった!)などの小さな家畜も含まれるが、イスラム教徒の人口が多いので豚は含まれない。ご想像の通り、糞尿はそのまま堆肥の山になり、野菜を育てる。植樹も彼女たちのプログラムの主要な部分を占めている。「私は彼女たちにフードライフ・ワークを教えています!アジア学院でやっていたように」とキャサリンは説明する。家庭訪問は週に1回、1,100軒ほどを回っている。これだけの人数を管理するために、村のボランティアを訓練している。彼女たちの目的は、「人々を依存から自立へと導く」ことだ。リガンガ村に車を停めると、私たちは陽気な歌と踊りに出くわした。彼女たちはティリンビカVSLグループの女性たち(と数人の男性)で、12名でスタートし、現在は34名まで増えたという。グループの代表から正式な歓迎を受け、自己紹介を求められた。キャサリンがチェチェワ語の単語を予習してくれた。私はカンニングペーパーを見なければならなかったが、みんな理解してくれて、努力を労ってくれた!
グループは毎週金曜日に集まり、“フードライフ・ワーク”を行っている。そしてみんなで座り、気候変動とも呼ばれる予測不可能な天候パターンにどう対応するかなど、農場での問題について話し合う。次に、会計を見直し、グループの財務上の仕事を処理する。彼女たちが最も興奮して話してくれたのは、創造的で革新的な取り組みについてで、多くのことがなされている。
まず、480本の苗木を有する苗床のことだ。昨年、彼女たちは病院、教会、学校、そして自分たちの家の周りに2,000本の木を植えた。実際、このミーティングは伸びやかに広がる枝の涼しい木陰で行われており、村全体は緑で彩られていた。今年の目標は8,000本。どうすれば達成できるかはわからないが、それよりも重要なのは、ただ植え続けることであり、人々はとても意欲的だった。ただ植えるだけでなく、交代で水や堆肥から作った肥料を与えるなど、手入れも怠らない。これも彼女たちのフードライフ・ワークの一環なのだ。
彼女たちは自分たちの畑のほかに、グループの畑(よりフードライフ・ワークらしい)を管理しており、昨年は45袋のトウモロコシを収穫した。一部は売却してVSLに寄付し、残りはメンバーで分け合った。作業配分や収穫物・利益の使い道については、グループ全体で慎重に話し合い、合意を得るようにしている。
これが自給自足の考え方だ
ミーティングをしていると、グループメンバーの手による商品がたくさん載せられたテーブルが運ばれてきた。その中にはモリンガ・パウダーやバオバブ・パウダーも含まれており、村人たちがその効能を説明してくれた。「マラリアや栄養失調にいいし、HIV感染者にも効くんだ」。モリンガ入りの手作り石鹸もあった。ある少女は、皮膚病(疥癬)にかかったときにこれを使ったら治った、と説明してくれた。ビニール袋を編んで作った帽子やサンダルも展示されていた―― ゴミから有用なものへの変換だ。一人の女性が熱心にビニールの編み方を実演してくれた。「このアイデアはラジオから得たんです。ラジオが電話番号をアナウンスして、私たちはそこに電話して教えてもらったんです」。二人の女性が、村で重宝されている草マットの編み方を披露してくれた。展示されている製品はすべて販売されているとのことだった。そこで私は助言をもとに、彼女たちの活動を支援するべく、たくさん買い物をした。特に石鹸が気に入った。
とても興味深かったのは、「ブリケット」だ。これは紙を丸めて水に浸し、乾燥させたものだ。炭の代わりに使えば、一つの鍋で1時間調理することができる。それを証明するために、彼らは会議の間にサツマイモを調理した。古紙は主に学校からもらうそうだ。サツマイモは柔らかくて甘かったが、私には多すぎたので、子供たちに分けてあげようとした。拒否する子もいれば、取っていく子もいた。ある男の子は他の子たちにこう言った。「どうして僕たちが毎日食べているものを、お客さんがくれるからと言って、もらうの?」。このことは、この子供たちが飢えておらず、この村の状況がうまくいっていることを示していたが、彼らはきっとキャンディーを期待していたのだろう。あの紙製のブリケットは長期的な解決策にはならないかもしれないが、炭の使用をやめるための、私が目にした最初の実用的な試みだった!
村長も同席し、サツマイモやキャッサバの増やし方など、自分のノウハウをグループに伝えている。キノコ栽培も始めたいようだが、村長自身が教えるのか、それとも教えてくれる人を探すのかはわからなかった。
彼のもう一つの重要な仕事は、村の紛争を解決することだ。
鳥肌が立つ瞬間
キャサリンは次に、何か質問はないかと尋ねてくれたので、私は質問をした。まず、5年後に再訪したら何が見られるのか、つまり彼女たちの夢は何なのかを知りたかった。家々はすべて鉄板屋根になり、自分たちのグループは登録された協同組合になり、収穫物を保管する倉庫を持つようになるだろうと彼女たちは言った。大きな森があって、みんなが自分の土地で果物を収穫する!なんとシンプルで明快な、美しいビジョンだろう。村人たちが望んでいること、必要としていることが正確に反映されている。これこそ、キャサリンのような草の根の農村指導者を育成した成果だと私は思った。これこそが我々がアジア学院で働いている結果なのだ。鳥肌が立った!
あなたのコミュニティの美しさは何ですか?
次に、私の大好きな質問をした。あなたのコミュニティの美しさは何ですか、という質問だ。彼女たちは、乾季でもサツマイモ、トウモロコシ、キャッサバを栽培するための灌漑用水を供給できるマラウイ湖が近くにあることを指摘した。彼女たちにとっての美しさとは、視覚的な美しさではなく、湖の実用性だった!確かにその通りだ!
マラウイ湖からの灌漑は、聞いたことがなかった。おそらく、灌漑は湖にごく近い人たちだけが行っているのだろう。現時点では大規模な灌漑は行われていない。これが、人々が美しさについて語ったすべてである。我々はしばしば、自分の内側や身の回りの美しさに気が付かない。我々は問題や欠陥に目を向けがちだから、この質問は彼女たちにとってあまり意味をなさなかったかもしれない。しかし、私の目にはすべてが美しく映った。特にこのグループのエネルギーと活気は。
最後に、なぜ村の外からやってきたキャサリンに指導を任せているのかと尋ねた。彼女たちはこう答えた。「私たちが訓練を受けていることはとても有益なことです。以前の私たちは何もしていませんでしたから!」
VSLの内情
話は移り、彼女たちの生活がどのように改善されたかについての体験談になった。以前は野菜を買うのにお金を払っていたが、今は自分の家の裏庭で収穫することができる。肥料にもかなりのお金を費やしていたが、今では糞尿を堆肥として使う技術も向上した。次の夢はヤギを飼うことだ。上記の夢リストに追加しよう!人々はVSLのことも気に入っている。これによって、小さなビジネスを始めたり、子供たちの学費をまかなったりすることができるようになったからだ。
彼女たちがVSLについて言及したので、私はこのグループを立ち上げるために必要な信頼をどのように築いたのかについて尋ねた。このような性質のグループには、何よりも信頼が不可欠だ。彼女たちは、以下のような規約があり、全員がそのルールを知っていると説明した。
1) 毎週金曜日の午後2時に集まる。
2) 遅刻したメンバーは200クワチャを支払う。
3) 理由なく欠席した会員には罰金が課せられる。
4) ミーティング内での個人的なミーティング(グループチャットなど)には100クワチャの罰金。
5) 2週間欠席したメンバーには、連絡を取り、グループに残りたいかどうか尋ねる。
さらに、病気のメンバーを援助するための「ソーシャル・ファンド」がある。グループのお金は貯金箱に保管され、金額が大きくなると銀行に預けられる。
キャサリンから、“アジア学院の知識”を共有してほしいと頼まれた。私はいつも「部外者の発想」を持ち込むのをためらうのだが、キャサリンにせがまれたので、彼女たちの地域資源に関連した提案をいくつか試みることにした。動物の骨はどうしているのかと尋ねると、捨てているというので、骨炭を作ると堆肥にカルシウムを加えられることを話した。また、魚の内臓をどうしているのか尋ねたところ、乾燥させて飼料用の粉末にすることで、すでに活用していることがわかった!ボカシも彼らにとって目新しいものではないが、独自の方法で作っている。4年間堆肥を作り続けた結果、土壌は大きく改善され、保水力が増したという。
「自然は分かち合うもの」
会合は、ゲストブックへの署名と議長の感謝の言葉、そしてさらなる歌声により幕を閉じた!村人たちの熱意と「依存から自立へ」という自信に大きな衝撃を受けた。
村をぶらぶら歩いていると、アカシア、ムテテ、ンダイア、アタンガ、グアバといった地元の木を育てている苗床を見つけた。この活動は2020年に始まったが、木が彼らの生活を向上させたと誰もが喜んでいる。「ここではどの家にも木があります。」そして、どの家でも年に5本の木を植える。木々は木陰を作り、防風林の役割を果たす。果実や薬効のあるものもある。枝は剪定して、薪やフェンス、屋根葺きに使うことができる。種は売ることができ、葉は堆肥になる!木を植えることは悪いことではなく、その数が制限される理由は、苗木を植えるための筒が足りないということぐらいしか見当たらない!「人と木の関係はとても大切です。だから私たちは植えるのです。」
ウサギ小屋もあり、糞は毎日丁寧に集められている。ウサギはものすごいスピードでたくさんの子どもを産み、村中に配られる。誰もが裏庭にバナナの木を植えており、人々は(より多くのバナナを植えるために必要な)挿し芽を気軽に分け合う。なぜそんなことをするのか?
「自然は分かち合うものだから。」彼女たちは声高に言う。
星々の湖
私たちは次にマラウイ湖を見に行った。医師、宣教師として有名なデイヴィッド・リビングストンが「星々の湖」と呼んだ湖だ。今回は西側から眺めた(マクドナルドの家は東側にある)。その美しさと重要な資源として、マラウイの人々の誇りでもある。そこには洗濯をする人々や、泳いだり、水浴びをしたりする子供たちがいた。教科書の絵の中にしか存在しないと思っていた、丸太を掘ったカヌーもいくつかあった。湖は本当にきれいで、アメリカにある別の巨大な湖、ミシガン湖の湖畔で過ごした子供時代を思い出させてくれた。
キャサリン・ンタンボについてもう少し
キャサリンの家で昼食をとりながら、彼女は家族や仕事について話した。彼女は2012年に結婚したが、2019年に離婚した。2009年、2012年、2017年生まれの3人の男の子がいる。リビングストンでは主にマイクロファイナンスグループと仕事をしていたが、2020年にワールド・リリーフに入社した後も、マンゴチで同じ仕事を続けた。組織のモットーは 「共に前進する」だ。彼女は新しい家庭に出会うと、その家庭と一緒に、将来どうなりたいかを考える“ビジョン・ジャーニー”をするそうだ。マラウイの最貧困層は、政府から「社会的現金給付」を受けることができる。政府はワールド・リリーフのようなNGOを雇い、こうした家族の自立と、“現金給付制度からの脱却”を支援している。
出発前、キャサリンは誇らしげに所有するバイクを見せてくれた。農村部に出かけるには、車よりもバイクの方がずっと便利だ。彼女は私をこのバイクでリガンガ村まで連れて行くつもりだったが、私のための予備のヘルメットがないことを心配していた。最初は私の安全のためだと思ったが、実際は警察から罰金を科されるのを恐れてのことだった!(あなたの安全のためにも、とすぐに付け加えたが‼‼)
マックの家に戻ると、カイの体調はかなり良くなっていた。オレンジ色の太陽がマラウイの光り輝く湖の底に沈んでいくのを眺めながら、ベランダで一緒に夕食を楽しんだ。食卓に上がったのはチャンボという、この近くの水域でしか見られない魚だった。
* フードライフ・ワーク:食といのちは切っても切り離せない、というアジア学院の造語、「フードライフ」を実践する、学院での朝夕の農作業や家畜の世話、食事作りなどの仕事のこと。
文:スティーブン・カッティング(卒業生アウトリーチ担当)
旅の同行者:篠田 快(学生募集、採用担当)
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Vol.14 【アフリカ 卒業生を訪ねる旅 15日目】<== 今ここ!
Vol.15 【アフリカ 卒業生を訪ねる旅 16日目】To Be Continued …